2020年6月23日火曜日

戦後の労働省「戦時中は朝鮮人労働者を差別待遇」



わが国の労働慣行においては古くから国籍、信條、社会的身分を理由とする差別待遇が見られ、特に太平洋戦争中には中国人労働者、台湾省籍民労働者及び朝鮮人労働者に対する内地労働者との賃金面における差別待遇が著しかった。

ポツダム厚生省令は、その一の対象として朝鮮人労働者なるが故に坑内労働という危険有害な作業に就業せしめられていた事実をとらえていたものであった。

国籍を理由として坑内労働の危険作業にのみ就業せしめたり或いは某国人だけを特定の業務に集めそこにおける安全衛生の環境を他の業務に比して悪くしておくというような事実があればそれらの事項はやはり本條(第3条)にいう「労働条件」として考えられる。



(出典: 労働省労働基準局編『労働基準法 上』研文社、1953年)



●解説

1953年に労働省(現・厚生労働省)が発行した労働基準法の逐条解説書より。労働者の最低限の権利を守るために47年に制定された労働基準法について解説する本であり、条文の説明だけでなく、戦前以来の歴史に触れて法の趣旨を説いている。

その中で、戦争中の朝鮮人の待遇について「差別待遇が著しかった」との認識を明示しているのが上記の箇所である。文中に出てくる「ポツダム厚生省令」とは、1946年に労働基準法に先立って出された「厚生省令第2号」のことで、その第一条で国籍や社会的地位での差別を禁止した。(リンク) *官報ファイルの(2/9)38ページの最下段にかけて

労働基準法第3条は「使用者は、労働者の国籍、信条、又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働條件について、差別的取扱をしてはならない」とし、第5条「強制労働の禁止」は、「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」ことをうたった。

この本では、戦前の刑法の判例などもふまえ、殴打の類だけでなく、相手を抑制してその意思に反する行為をさせることを「暴行」と認定。①一定の場所より脱出できなくして継続して自由を拘束した場合②後難を怖れて逃走できなくした場合③工場の出入り口に外部からカギをかけた場合――を監禁に当たると指摘。前借金、強制貯蓄はもちろん、親がケガをしたとの電報が来たので帰郷したいと申し出たのに労働させたことなども「不当な拘束」にあたると解説している。

つまり、戦後の日本国憲法の観点から言えば、朝鮮人の戦時動員は、ほとんどが強制労働に当たる。戦時動員だけでなく、それ以前からの、長期間、身体的に拘束して働かせる、いわゆる「タコ部屋」での朝鮮人や日本人の労働も、強制労働に当たるといえるだろう。ちなみに、炭鉱や土木工事現場などにタコ部屋労働が多く、戦中もそれは根絶せずに増えていたことも、この本には書かれている。