2020年8月30日日曜日

日本の徴用工裁判での「和解」内容③――不二越訴訟最高裁判所和解(2000年7月11日)

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 請求の趣旨及び原因は、名古屋高等裁判所金沢支部が平成八年(ネ)第158号強制連行労働者等に対する未払賃金等請求事件について、平成十年1221日に言い渡した判決(その付加訂正して引用する富山地方裁判所平成四年(ワ)第263号事件の判決を含む。)の事実適示のとおり

 

和解条項

一 被上告人兼相手方(以下「被上告人」という。)と、上告人兼申立人三名(以下「上告人三名」という。)並びに利害関係人徐廷烈、同金喜庚、同梁春姫及び同権炳淑(以下上告人三名と右利害関係人四名を併せて「上告人等七名」という。)並びに利害関係人太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会及び金景錫(以下右利害関係人両名を「利害関係人二名」という。)とは、第二次世界大戦中、上告人等七名が被上告人において労働したことについて真摯(しんし)に受け止め、本和解をもって一切を解決するものとする。

 

二 被上告人は、当時、上告人等七名を含む日本国内外の多くの人々が、被上告人において労働したことをあらわすため、被上告人の会社構内に碑を設置するほか、上告人等七名及び利害関係人二名に対し、解決金(注)を払うものとする。

 

三 利害関係人二名は、当時の被上告人での労働にかかわることについて、本和解をもって一切を解決したことを確認し、以後被上告人に対し何らの請求をしない。

 

四 上告人三名は本件請求を放棄する。

 

五 上告人等七名及び利害関係人二名と被上告人との間には、本和解条項に定める外に何らの再建債務のないことを相互に確認する。

 

六 訴訟費用及び和解費用は、第一審、第二審及び上告審を通じ、各自が負担する。

      

               (注)解決金の総額は3500万円

(出典:『不二越訴訟裁判記録Ⅰ 主張・判決編』不二越訴訟弁護団、2001年5月1日)

 

 

解説

この訴訟は1992930日、富山県の企業「不二越」に動員された元女子勤労挺身隊員2名、元徴用工1名の計3名が富山地裁に起こしたもので、未払い賃金の支払いと強制連行に対する賠償(1人当たり500万円ないし1000万円)、謝罪広告を求めていた。

裁判所は一審、二審ともに、不二越に対する原告の請求を時効などを理由に棄却。その一方で、不二越の強制動員、強制労働の事実や賃金未払いについては、判決の中で詳細に認定した。

1996724日に出された富山地裁一審判決では、不二越の従業員が、不二越に行けば「女学校に通え、そこを卒業でき、お金もたくさんもらえ、タイプライター、ミシン、お花が習える」、「勉強も仕事もでき、上級学校にも行くことができるし、お金も余計稼ぐことができる」などと勧誘して、女子勤労挺身隊員を連れてきた事実を認定した。しかし、実際には、「勉強する機会も、女学校に通うことも、生け花、裁縫、タイプを教えてもらうこともなかった」、「学校に行かせてくれるよう何度も頼んだが、『ちょっと待っていろ』と言われたのみで学校に通わせてもらえなかった」。不二越は、動員時にまだ国民学校(小学校)6年生、12歳であった原告を「欺罔(ぎもう:だますこと)」したのである。これは明らかに強制連行であった。

また、一審判決では、賃金はもらえず、はがき、切手が買える程度の小遣いをもらっただけであった事実、1週間交替の昼夜二交替制で過酷な労働を強いられた事実、「食事も十分ではなく、道に生えている芹(せり)を食べたり」するような状態にあった事実をも認定した。これは強制労働に当たる。 

この訴訟では、一審に続き、二審も原告敗訴となったが、上告後の2000711日、最高裁で和解が成立した。この和解は裁判所(最高裁)で交わされたが、原告3名以外の「利害関係人」も含めて被告会社が和解したことが大きな特徴であった。一、二審判決で会社側が抗弁したにもかかわらず裁判所が原告らの被害事実を具体的に認定したこと、原告らが米国で別訴を提起する動きを見せていたことなどが、被告会社の和解解決選択の背景にあっと言われている。