2020年6月8日月曜日

「5日以内に労働者を集めよ」と総督府無理強い

労務動員実施計画に依る朝鮮人労務者の内地移入斡旋要綱(1942年)

 

労務動員実施計画に依る朝鮮人労務者の斡旋に依る内地移入に関しては別に定むるものを除くの外本要綱に基き之を実施す。

 

第一 通則

 本要綱に依り内地に移入せらるべき朝鮮人労務者は総て之を労務動員産業に従事せしむるものとす。

 本要綱に依り内地に移入せしむべき朝鮮人労務者の数は毎年度労務動員の実施計画に示さるる数を限度とするものとす。朝鮮人労務者にして出動期間満了し帰郷したるものの補充に付ては爾後同数を本要綱に依る方法に依り移入せしめ得るものとす。

 本要綱に依り斡旋したる朝鮮人労務者の処遇に付ては出来得る限り内地人労務者との間に差別なからしむるものとす。

 本要綱に依り斡旋する朝鮮人労務者の出動期間は原則として二箇年とするものとす。

第二 斡旋の申込及び処理

〔一~四については略〕

 

五、職業紹介所及び郡島道より前項の割当通牒を受けたるときは五日以内に更に邑面別選出人員を決定し直に別紙第六号様式に依り邑面に通牒すると共に別紙第七号様式に依り道に報告するものとす。

六、職業紹介所及府邑面は常に管内の労働事情の推移に留意精通し供出可能労務の所在及供出時期の緩急を考慮し警察官憲、朝鮮労務協会、国民総力団体の他関係機関と密接なる連絡を持し労務補導員と協力の上割当労務者の選定を了するものとす。

 

〔以下略〕

 

●解説

 

 赤字は当サイトによる。いわゆる「官斡旋(あっせん)」の手続きや留意事項を記した、朝鮮総督府の公文書。19449月から始まる、国家総動員法・国民徴用令による「徴用」だけが政策的な動員だとする論者もいるが、それは無理な解釈である。この文書の第二の六に記されているように、官斡旋の段階であっても、地方末端の役場の役人や警官が、企業の派遣した募集担当者=労務補導員と協力しながら、動員すべき者を確保することを指示している。そもそも「官斡旋」という言葉の意味を考えれば、行政が関与していることはすぐ分かる。

 

   また、第二の五からは、邑と面(日本の町と村にあたる役場)が、郡・島・道(道は都道府県レベルの地方行政機関、郡と島は邑・面の上部にある地方行政機関の名称)から指示を受けたら、日本内地に送り出すべき労働者を5日以内に選んでいたことが分かる。


   
現実的に考えてみよう。見ず知らずの村にやってきた企業の募集人が、たった5日のうちに、「ちょうど日本に働きに行きたいと思っていました」「炭鉱でも土木工事現場でもいいからともかく仕事をください」という人をどれだけ探し出せるだろうか。そもそも交通不便な村のなかを回ること自体が容易ではなかったはずである。また、そこの村人も、たとえ「今の生活では食っていけない」「日本で金を稼げるのなら行ってみたい」と漠然と考えていた人であったとしても、いきなり5日後に日本に行けと言われても困ったはずだ。


 
いくらのんびりした村であっても、1週間後にやる予定の農作業もあれば、家族の結婚や出産といった予定も、それなりにあってもおかしくない。結局、本人の意思とは無関係の強制連行で人集めをやるほかなかったのである。

 

   なお、通則の三で、わざわざ、朝鮮人労働者について「出来得る限り」日本人と差別がないようにと述べているのは、実際には差別が問題になっていたからだと推測できる。また通則の四では、出動期間は原則2年としているが、実際には期間延長を強いられたケースが多発したことが知られている。